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心の余裕

月曜の朝、出勤途中のバスの中。8割ほどの混みぐあいで、「あーあ、今日からまた仕事かぁ。」と心でつぶやいている人が大半といった雰囲気。私は最後部に席を見つけてなんとか座った。ここって、座席が高くて足がつかないから嫌い。落ち着かない。

前の二人がけの席には、きれいに髪を編み込んだ若い黒人女性と3歳くらいの金髪の可愛い女の子。その子がさっきから細い小さな声で何か歌っている。歌が途切れるたびに女性が「上手ねぇ、きれいな声ねぇ。」と言いつつ小さく拍手をする。

女の子はうれしそうに自分で作った歌をうたい続ける。歌詞もリズムも曲もまったくのでたらめ。でも歌うたびに女性が拍手するから、だんだん声が大きくなってきて、歌い方も大胆になってきた。バスが走っている時には騒音でかき消されるけど、信号で停まって静かになったらけっこう聞こえる。

さすがにまわりが気になったのか、女性が拍手をためらったその時、女の子の高い声がひときわ大きく車内に響いた。乗客が一斉に後部座席を振り返る。一瞬にして注目を浴びた女の子が固まっていると、「お嬢ちゃん、お歌がうまいね。いい声だ。」と見知らぬ男の人が声を挙げ、他のみんなも笑いだし、期せずして大きな拍手が起きた。瞬間緊張した雰囲気が一気にほぐれ、恥ずかしがって女性の膝に顔をうずめてしまった女の子を、誰もが笑顔で優しく見つめている。

公共の場で子供が騒ぐことを決して良しとしないこの国で、まわりの空気がまだ読めない幼子を連れていると何かと緊張する。バスの中でも大きな声を挙げたりしないよう、親はできるだけ気を配る。

「うるさいぞ!」と言っても子供は黙るに違いないが、その場の空気は凍って張りつめたものになるだろう。でも小さな女の子の無邪気な歌声に目くじら立てることなく、柔軟に対応した乗客の様子には本当に心が和んだ。この街にいると、ちょっとした心の余裕が人々から感じられることが多い。

休み明けのどんより曇った朝、バンクーバー暮らしもまんざらではないなと思いつつビル群を眺めると、かすかに微笑んだ私の顔が車窓に映っていた。

(2005年09月02日)


バンクーバーの公共交通システム「トランスリンク」のバス。
インド系シーク教徒の運転手はターバン着用で勤務。



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